LF. 理論カリキュラム100 / 第9部 自己運用と統合
092
判断してよい状態
飲酒運転をする経営者はいない。

だが徹夜明けに価格を決め、疲れ切った深夜に契約の返事を書く経営者は山ほどいる。

この二つがほぼ同じ行為であることを示した実験が、科学誌に載っている。

命題
寝不足の判断は、飲酒の判断である。判断内容の規則に加え、「判断してよい状態」の規則を持つ。
前提講 061, 091
出典 Dawson & Reid(Nature 1997)。仮釈放審査と疲労の研究(2011)。
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17時間の連続覚醒は、血中アルコール濃度0.05%相当(多くの国で運転が規制される水準)の認知機能低下に相当する(Nature 1997)。

朝6時に起きた人の夜11時は、法的に運転を許されない程度に酔った脳と同じ性能しか出ない。

徹夜明けなら、さらに深い酩酊に相当する。

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社会は飲酒運転を厳しく禁じる一方、寝不足での重要判断は野放しである。

部品の信頼性という観点では両者は同じ現象である。

むしろ事業の重要判断は、運転より取り返しがつかないことすらある。

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よって重要判断(大きな契約・撤退・採用・高額購入)は、睡眠不足の夜・強い感情の直後・締切圧力の只中では、翌日以降へ送る。

判断の中身を磨く規則だけでは足りない。

判断してよい状態を定義する規則が、もう一本要る。

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これは意志の弱さへの譲歩ではなく、部品を定格の範囲内で運転するという標準的な運用規則である。

どんな機械にも連続運転してよい負荷の上限が定められている。

人間という部品にだけ定格がないと考える理由はない。

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実装: 決める仕事を月初・早朝の高品質な時間に集約し、日中には判断を残さない。

体力と睡眠は精神論ではなく、事業の可用性を決める固定資産の保守費である。

保守を削った設備が最悪のタイミングで壊れるように、保守を削った身体は最も高くつく局面で止まる。

事例
判断者の状態が結論を動かした実例に、イスラエルの仮釈放審査の研究(2011年発表)がある。

裁判官による1,100件超の審理を分析すると、食事休憩の直後は仮釈放の許可率が約65%あったのに、休憩前の連続審理の末には0%近くまで落ちていた。

事件の中身ではなく、裁判官の消耗度が結論を左右していたのである。

職業的訓練を積んだ判断者ですらこうなる。

疲労は根性で相殺できる変数ではなく、判断そのものを別の結論へ動かす変数である。

よくある誤解
この講を「体調管理も実力のうち」という精神論と読むのは誤りである。

これは気合いの話ではなく、スケジュール設計の話である。

判断を高品質な時間帯へ移すのは、意志ではなくカレンダーの操作でできる。

まとめ
判断の質は、内容の吟味と同じだけ、判断する側の状態に依存する。

判断してよい状態の規則を持つ者だけが、部品の定格内で経営できる。

宿題
自分にとっての重要判断(契約・価格・採用・撤退)を列挙し、「これらは疲労時・感情の直後には決めず、翌朝以降に回す」というルールを一行で明文化する。
次講
意志そのものを設計から外す
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092 判断してよい状態
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