LF. 理論カリキュラム100 / 第8部 AI時代の堀と市場
081
ユーザー維持の6要素
新規顧客の獲得法は誰もが熱心に語るのに、「なぜ顧客が離れないのか」の設計は驚くほど語られない。

だが事業の収益の大半は、離れなかった顧客から生まれる。

まず、離れない理由を6つに分解するところから始める。

命題
顧客が離れない仕組みは6つに分解でき、あらゆるサービスの点検リストになる。
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①蓄積→カスタマイズ: データが溜まるほど自分専用になる(視聴履歴と推薦精度)。

使えば使うほど、他のサービスでは得られない「自分に最適化された体験」が育つ。

顧客は商品ではなく、自分の蓄積に留まる。

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②スイッチングコスト: 移行したら失うものが時間とともに増える。

履歴、設定、慣れた手順。

乗り換えの検討のたびに「引っ越しの面倒」が天秤の片側に載り、多少の不満なら我慢する方が安くつく。

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③ネットワーク効果: 他人が使うほど自分の価値も上がる(電話・SNS・商流)。

自分一人の利用価値ではなく、参加者全体の存在が全員の価値を押し上げる。

一人では作れない唯一の要素でもある。

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④学習コストの償却: 使い方を覚えたこと自体がロックインになる。

⑤コンテンツ・資産のロックイン: そこに作ったものが持ち出せない。

どちらも「積んだものを捨てたくない」という人間の性質を土台にした維持構造である。

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⑥信用・レピュテーションの蓄積: 積んだ評価が経済価値を持ち、外に持ち出せない。

— 自社は6要素のどれで顧客を保持しているか、を言えることが堀設計の第一歩。

言えない事業は、顧客がなぜ残っているのかを運に任せている。

事例
自分の一日を点検してみるとよい。

動画サービスは視聴履歴が推薦を磨くから離れがたく(①)、メッセージアプリは友人がそこにいるから替えられず(③)、クラウド会計は仕訳の蓄積が乗り換えを重くし(②)、使い慣れた表計算ソフトは操作の習熟そのものが資産で(④)、長年書いたブログは過去記事ごと引っ越せず(⑤)、フリマアプリで積んだ高評価は他所へ持ち出せない(⑥)。

私たちは毎日、この6本の糸の網の中で暮らしている。

売り手に回るとは、この糸を編む側に回るということである。

よくある誤解
6要素を「顧客を閉じ込める技術」と読むのは誤りである。

満足の上に編まれた維持だけが健全に働く。

不満の上に築いた維持構造がどう崩れるかは、この部の後半で実例とともに見る。

まとめ
顧客が離れない理由は6つに分解できる。

自社がどの要素で顧客を保持しているかを一行で言えることが、堀の設計の出発点である。

宿題
自社の商品を6要素で採点し、「顧客が残っている本当の理由」を1行で書く。
次講
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