LF. 理論カリキュラム100 / 第6部 レバレッジと委譲
067
第3の壁
委譲
人を雇ったのに、前より忙しくなった。

多くの経営者が通るこの怪現象には、はっきりした原因がある。

渡したのが実務だけで、判断を渡していないのだ。

作業は減ったのに、判断の行列が自分の前に伸びていく。

命題
価格・品質・例外対応の判断が、文書化された基準によって自分以外にも下せる状態が、壁の通過である。
前提講 065
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実務だけ渡して判断を渡さない雇用は、人件費を払って自分の忙しさを維持する行為である。

部下が増えるほど「これはどうしますか」が増え、社長は作業者から質問処理係に昇格しただけになる。

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越え方の順序は決まっている。

まず判断基準(価格の決め方、品質の合格ライン、例外対応の処理ルール)を文書化する。

その上で、権限を実務→運用判断→意思決定の順で移す。

文書が先、権限が後。

逆にすると、権限を渡された側が基準のない判断を強いられ、萎縮か暴走が起きる。

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これは個人の性格問題ではなく、経営学の古典が指摘してきた構造である。

Greiner(1972)は、指示型で成功してきた経営者ほど権限を手放せず、委譲への移行期に多くの会社が座礁することを示した。

成功体験こそが、次の壁の障害物になる。

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日常の意思決定を「権限・数字・例外処理ルール」として定義し切ったとき、社長の手元に残るタスクは資本配分と例外対応だけになる。

それが第3の壁の向こう側の風景である。

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どの壁もそうだが、越えるのは根性ではなく、道具と手順である。

壁の前で長く止まっているなら、足りないのは努力ではなく、基準の文書か、手前の壁の完了である。

事例
実例として、松下幸之助が1933年に導入した事業部制がある。

製品分野ごとに事業部を分け、開発から損益までの判断を各事業部長に委ねた。

当時の松下電器はまだ中堅企業であり、カリスマ創業者が全判断を握り続けることもできた規模である。

だが幸之助は、判断の基準と責任の範囲を明文化して権限ごと渡す道を選び、これが後の大企業化を支える経営の骨格になった。

委譲は会社が大きくなってからやる仕上げではなく、大きくなるために先に打つ布石である。

よくある誤解
「委譲=丸ごと任せて口を出さない」と読むのは誤りである。

委譲されるのは基準に沿った判断であり、基準そのものの改訂と、基準外の例外は経営者に残る。

任せることと、手放すことは違う。

まとめ
委譲とは人に任せることではなく、判断を文書に移すことである。

文書化された基準が、自分以外の人間に判断を可能にする。

宿題
自分しか下せない判断を3つ書き出し、それぞれについて「基準を文書化すれば他人に渡せるか」を判定する。
次講
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067 第3の壁
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