LF. 理論カリキュラム100 / 第6部 レバレッジと委譲
061
人間という信頼性の低い部品
「気をつけていたのにミスをした」。

この言葉には、気をつければミスは消せるという前提が隠れている。

だが工学の世界では、人間の誤り率はとうに測定済みである。

測定値を見れば、精神論の出る幕がないことが分かる。

命題
人間のエラー率には相場があり、平常時0.99、危機下では0.9まで劣化する。
前提講 045, 052
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原子力の安全解析から発達した人間信頼性解析(代表的な手法にTHERPがある)は、作業の種類ごとに人間の誤り確率の目安を与えてきた。

慣れた単純作業でも100〜1,000回に1回は誤り、時間圧迫や高ストレス下では10回に1回のオーダーまで跳ね上がる。

誤り率は根性ではなく、測定の対象である。

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つまり人間は、信頼度0.99〜0.999程度の部品であり、危機下では0.9まで劣化する変動部品である。

しかも劣化した瞬間の本人に、劣化の自覚はほとんどない。

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この数字を第5部の直列の掛け算に代入すると怖さが分かる。

信頼度0.99の判断を30回直列に重ねると、全体の成功率は約0.74まで落ちる。

疲労と焦りの中の連続判断(0.9側)なら、数回重ねただけで成功率は半分を割る。

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これは優秀さの問題ではなく、部品の仕様の問題である。

当代一流のテストパイロットがレバー一本を忘れてB-17は墜落した。

例外的な失敗談ではなく、誤り率の相場が実演された記録として読むべきである。

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よって経営の設計方針は決まる。

人間の性能を上げようとするのではなく、性能に依存しない構造を組む。

教育や注意喚起は最後の補助であり、主役は仕組みの側である。

事例
実例として、日本の鉄道現場の指差喚呼がある。

対象を指差し、声に出して確認するあの動作は、精神論に見えて逆である。

鉄道総合技術研究所の実験では、指差と呼称を併用すると、何もしない場合に比べて作業の誤り率が大きく下がることが示されている。

これは「注意力を鍛える」のではなく、確認という行為を身体の手順に変換して、注意力への依存を減らす仕組みである。

人間の性能を信じないからこそ生まれた道具が、百年近く現場を守ってきた。

よくある誤解
「人間は信用できない」という悲観論と読むのは誤りである。

信用できないのは連続稼働時の正確さという一機能だけで、判断・関係・創造は依然として人間の主戦場だ。

仕組みに正確さを任せるのは、人間を軽んじるためではなく、人間を得意分野に専念させるためである。

まとめ
人間の誤り率には相場があり、訓練ではほぼ動かない。

経営は、その仕様を前提に構造の側を組み替える営みである。

宿題
先月の自分のミスを一つ選び、「注意で防ぐ」以外の対策(作業自体の削除、自動化、チェックリスト化)を一つ書く。
次講
仕様には方向性のある歪みもある
LF.
第6部 レバレッジと委譲
061 人間という信頼性の低い部品
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