見分けられない者は、計算上は正しく、現実には破滅する。
1回の期待値は約プラス8,333万円で、計算上は「打つべき賭け」に見える。
集団の平均(多数が1回ずつ試す)と時間の平均(一人が繰り返す)は一致しない。
エルゴード性の問題と呼ばれ、退場を含むゲームでは平均値は生存者にしか意味を持たない。
損害が有界で回復可能な領域では、備えは費用対効果で決めてよく、過剰な備えは正当に削ってよい。
ラムエアタービン(全動力喪失時に展開する小さな風車)は、ほぼ全機で一度も使われないまま退役するが、全機に搭載され続けている。
使用時の一回が、全損か生還かを分けるからである。
電力と油圧の大半を失った機体で、ラムエアタービンが展開して最低限の操縦機能を維持し、機長らは機体を滑空させて旧空軍基地ギムリーに着陸させた。
死者はゼロだった。
ほとんどの機体で一度も使われない装備が、この一便では全員の生死を分けた。
事業における生活防衛資金や保険は、このラムエアタービンに相当する。
稼働率の低さを理由に削ってよい装備ではない。
有界な損失の領域では、期待値プラスの賭けをむしろ数多く回すべきだ。
禁じられているのは、賭け金の中に退場を混ぜることだけである。
墜ちる領域に触れる賭けは、確率がどれほど低くても生存条件の側で処理する。
触れる側にあるものが最優先の設計対象である。
