LF. 理論カリキュラム100 / 第5部 落ちても墜ちない
056
復旧の速さも信頼性である
「失敗しない人」はこの世に存在しない。

存在するのは、復旧が速すぎて失敗が外から見えない人である。

この直感を数式にした指標がある。

命題
稼働率は壊れにくさ(MTBF)と直りやすさ(MTTR)の関数であり、後者の方が安く確実に改善できる。
1 / 5
稼働率=MTBF÷(MTBF+MTTR)。

MTBFは平均故障間隔、MTTRは平均修復時間。

稼働率を上げる道は、壊れにくくする道と、直りやすくする道の二本ある。

2 / 5
多くの現場で後者の方が安く確実である。

故障ゼロへの努力は急速に逓減するが、復旧手順の整備・予備の事前配置・切替の訓練は、投資にほぼ比例して効く。

3 / 5
人に写像すれば、失敗しない人は存在しない(MTBFは有限)。

存在するのは復旧が速い人と遅い人であり、復旧が10倍速ければ稼働率はほぼ無傷に見える。

4 / 5
だから、立ち直りの手順、資金が詰まったときの調達手段、体調を崩したときの回復の型 — MTTR短縮への投資は、失敗回避への投資と同格の、正規の信頼性投資である。
5 / 5
現代の大規模Webサービスの運用思想が「壊れないこと」より「壊れても数秒で戻ること」に軸足を置くのは、この算術による。

事業者個人の設計も同じ軸足でよい。

事例
国土規模のMTTR設計が電力のブラックスタートである。

全域停電からの復旧では、外部電力なしに自力起動できる電源(多くは水力発電所)をまず立ち上げ、その電力で次の発電所を起動し、送電網を島のように広げて系統を再構築する。

2018年の北海道ブラックアウトでも、この手順に沿って復旧が進んだ。

重要なのは、手順が事故後に考案されたのではなく、事前に文書化され訓練されていたことである。

事業でいえば「主要顧客を失った日に最初に打つ連絡先のリスト」を平時に書いておくことが、これに当たる。

よくある誤解
「復旧が速ければ失敗してよい」は誤読である。

故障には毎回コストがかかる。

式の含意は、予防投資が逓減し始めた地点から先は、同じ資源を復旧短縮に回す方が効く、という配分の話である。

まとめ
信頼性は「壊れにくさ×直りやすさ」である。

失敗の回避と同じ真剣さで、復旧の速さに投資する。

宿題
自分の事業の「最悪の故障」を一つ想定し、復旧の最初の3手を今日書き出す。

書いた瞬間、MTTRは短くなる。

次講
故障は時期によって性質が違う
LF.
第5部 落ちても墜ちない
056 復旧の速さも信頼性である
MOLVACK