だが同じ掛け算を裏返すと希望の式になる。
しかも結論は直感に反する。
90点を99点に磨く努力より、90点のまま2本並べる設計の方が、結果は上なのである。
全体が止まるのは全要素の同時故障のときだけで、信頼度は1から各故障確率の積を引いたものになる。
全体は0.99に跳ね上がる。
3本なら0.999。
90点の部品が、2本で99点、3本で99.9点になる。
品質を上げる努力と構造を変える設計は別の変数であり、多くの場合後者が勝つ。
各回路の故障が互いに独立であること。
そして故障の検知と切替が実際に作動すること。
どちらが欠けても式は成り立たない。
2重化で+0.09、3重化で+0.009、4重化で+0.0009。
多くの用途で2〜3重が経済合理の上限であり、航空機の油圧が3〜4系統なのはこの均衡点である。
1988年にカリフォルニア大学バークレー校の研究者らが論文で体系化した。
高価な一台の高信頼ディスクではなく、安価なディスクを複数並べてデータを冗長に持たせ、一台の故障ではデータが失われない系を作る。
今日のサーバーからクラウドまで、世界のデータ保全はこの「平凡な複数」の上に載っている。
バックアップの3-2-1ルール(複製3つ・媒体2種・1つは遠隔地)も同じ思想の運用版である。
独立性が崩れていれば何本並べても式は成り立たない。
次講で見る通り、独立していない複数は実質一本である。
ただしその希望は、独立性という通貨でしか買えない。
