LF. 理論カリキュラム100 / 第5部 落ちても墜ちない
053
並列の希望
前講の掛け算は絶望的に見えた。

だが同じ掛け算を裏返すと希望の式になる。

しかも結論は直感に反する。

90点を99点に磨く努力より、90点のまま2本並べる設計の方が、結果は上なのである。

命題
平凡な複数は、完璧な一本に勝つ。これは精神論の対極にある算術の結論である。
前提講 052
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並列システムとは、一つでも生きていれば全体が動く構造である。

全体が止まるのは全要素の同時故障のときだけで、信頼度は1から各故障確率の積を引いたものになる。

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信頼度0.9の回路を独立に2本並べると、同時に落ちる確率は0.1×0.1で0.01。

全体は0.99に跳ね上がる。

3本なら0.999。

90点の部品が、2本で99点、3本で99.9点になる。

3 / 5
個々の回路を90点から99点へ磨く努力は困難で高価だが、90点をもう一本引く設計はそれより安く、全体への寄与は桁違いに大きい。

品質を上げる努力と構造を変える設計は別の変数であり、多くの場合後者が勝つ。

4 / 5
ただし成立条件が二つ。

各回路の故障が互いに独立であること。

そして故障の検知と切替が実際に作動すること。

どちらが欠けても式は成り立たない。

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なお冗長化の限界効用は急速に逓減する。

2重化で+0.09、3重化で+0.009、4重化で+0.0009。

多くの用途で2〜3重が経済合理の上限であり、航空機の油圧が3〜4系統なのはこの均衡点である。

事例
この算術を記憶装置で実装したのがRAIDである。

1988年にカリフォルニア大学バークレー校の研究者らが論文で体系化した。

高価な一台の高信頼ディスクではなく、安価なディスクを複数並べてデータを冗長に持たせ、一台の故障ではデータが失われない系を作る。

今日のサーバーからクラウドまで、世界のデータ保全はこの「平凡な複数」の上に載っている。

バックアップの3-2-1ルール(複製3つ・媒体2種・1つは遠隔地)も同じ思想の運用版である。

よくある誤解
「数を増やせばよい」は誤読である。

独立性が崩れていれば何本並べても式は成り立たない。

次講で見る通り、独立していない複数は実質一本である。

まとめ
並列の信頼度は劇的に回復し、平凡な複数は完璧な一本に勝つ。

ただしその希望は、独立性という通貨でしか買えない。

宿題
直近3ヶ月、自分は「90点を磨く努力」と「もう一本引く設計」のどちらに時間を使っていたかを振り返る。
次講
成立条件「独立性」が破られるとき
LF.
第5部 落ちても墜ちない
053 並列の希望
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