LF. 理論カリキュラム100 / 第5部 落ちても墜ちない
043
事業は「落ちるもの」である
「今月もなんとか回った」と思えた月は、実は例外の月である。

航空工学は「うまくいって当然」の逆の前提から出発して、世界で最も安全な輸送手段を作り上げた。

命題
事業のデフォルト状態は落下であり、うまくいっている状態は条件維持の例外である。
1 / 5
飛行機に働く力のうち、重力だけが無条件・常時・故障なしで働く。

揚力は速度・迎え角・空気密度という条件が揃って初めて生まれる借り物の力である。

2 / 5
エンジンが止まれば速度が落ち、速度が落ちれば揚力が消え、揚力が消えれば重力だけが残る。

この因果に例外はなく、航空機のデフォルト状態は落下である。

3 / 5
事業も同型である。

営業しなければ先細り、連絡しなければ関係は疎遠になり、スキルは陳腐化する。

劣化は「放置」というゼロコスト入力で確実に働く。

何もしないことは現状維持ではなく、緩やかな降下である。

4 / 5
収入・信用・健康という揚力は、条件を満たし続ける限りでしか発生しない。

維持の手を止めた瞬間から、重力側が勝ち始める。

5 / 5
「うまくいっている」はデフォルトではなく例外状態である。

うまくいって当然と考える者は備えず、落ちて当然と考える者だけが設計する。

この認識が第5部全体の出発点。

事例
1954年、世界初のジェット旅客機コメットが立て続けに空中分解した。

英国王立航空研究所は同型機を水槽に沈めて与圧と減圧を何千回も繰り返し、原因を金属疲労と特定した。

一回の大荷重に耐える機体が、飛行のたびの小さな負荷の反復で亀裂を育てていたのである。

事業も同じで、一度の危機に耐える体制と、日々の消耗の反復に耐える体制は別の設計を要する。

多くの事業は前者を想定して、後者で静かに壊れる。

よくある誤解
この講は「悲観して守りに入れ」という話だと誤読される。

正しくは逆で、デフォルトが落下だと認めた者だけが、揚力の条件を特定し、維持コストを予算に組み込める。

まとめ
事業のデフォルトは落下であり、好調は条件維持の例外である。

この前提の反転が、以降17講の入口になる。

宿題
自分の事業の「揚力の条件」を3つ書き、維持を止めたら何ヶ月で降下が始まるかを見積もる。
次講
ならば落ちることは避けられないのか
LF.
第5部 落ちても墜ちない
043 事業は「落ちるもの」である
MOLVACK