LF. 理論カリキュラム100 / 第4部 会計と逆算
040
利益と現金は別物
「利益は出ているのに、通帳に金がない」。

経営者が最初に出会う会計の怪奇現象である。

税理士は当然の顔をしているが、本人には手品にしか見えない。

種は単純で、利益と現金は、同じ出来事を別の時間軸で記録しているだけである。

命題
会計上の利益と現金は別のタイムラインで動く。分離を理解した者だけが正しく投資できる。
前提講 034
1 / 5
減価償却(高額な資産の購入費を、複数年に分けて費用計上する仕組み)が分離の代表である。

300万円の設備を買うと、現金は購入時に300万円が一括で出る。

だが費用は、5年償却なら毎年60万円ずつしか計上されない。

現金の動きと損益の動きが、最大5年ずれる。

2 / 5
この分離を理解しないと、二つの病気のどちらかに陥る。

「利益は出ているのに金がない」と嘆くか、「金はあるのに今期の利益が減るから投資できない」と縮こまるかである。

どちらも、二つの帳簿を一つだと思い込んだ症状だ。

3 / 5
節税のための支出は、この混同の典型である。

利益を減らすために物を買えば、税金は減るが、現金はそれ以上に減る。

税率が3割なら、100万円使って節約できる税は30万円。

差し引き70万円の現金が消えている。

目的と手段の混同である。

4 / 5
出口の評価をEBITDA(償却前の利益)基準に置けば、必要な投資が「今期の利益の見え方」を理由に歪められない。

買い手も金融機関も、償却で薄化粧した利益ではなく、稼ぐ力そのものを見ている。

5 / 5
だからすべての投資判断は、「損益への影響」と「現金への影響」を別々の行で言えることが条件になる。

一行でしか説明できない投資判断は、半分しか検討されていない。

事例
架空の例だが、内装に800万円をかけて店舗を開いた美容室オーナーがいる。

償却のおかげで初年度の損益計算書は小さな黒字に見えたが、現金は開業時にまとめて出ているため、残高は常に薄氷だった。

逆に同業のもう一人は、黒字が続いて現金も貯まっていたのに、「利益が減って決算が悪く見える」という理由で必要な設備更新を3年見送り、古い設備のまま顧客を失った。

前者は現金の行を見ておらず、後者は損益の行しか見ていなかった。

同じ分離の無理解が、正反対の失敗を生む。

よくある誤解
「会計の知識は税理士に任せればよい」と読むのは誤りである。

記帳は任せてよいが、利益と現金の分離は投資判断そのものであり、判断は委譲できない。

任せてよいのは作業で、理解は自前で持つ。

まとめ
利益と現金は、同じ出来事の別の時間軸である。

投資は必ず「損益」と「現金」の二行で検討する。

宿題
直近の大きな支出を一つ選び、「損益への影響」と「現金への影響」を二行に分けて書いてみる。
次講
この会計を個人に適用すると一人前ラインが出る
LF.
第4部 会計と逆算
040 利益と現金は別物
MOLVACK