この不気味な現象には、はっきりした原因がある。
顧客を一人増やすたびに、実は損をしている事業が存在するのだ。
しかも本人は、伸びているせいで気づけない。
一人の顧客が生涯にもたらす利益の総額)は、単価×粗利率×購入回数で近似する。
重要なのは売上ではなく粗利で数えることだ。
売上ベースのLTVは、粗利の薄い商売を立派に見せる化粧になる。
一人の顧客を得るためにかかった総費用)には、広告費だけでなく、獲得に使った自分の人件費(037)も含める。
営業に費やした時間を除外したCACは、実際の半分の数字しか示さない。
倍率が3倍でも回収に12ヶ月かかる事業は、新規獲得を増やすほど当面の現金が先に出ていく。
成長するほど現金が減るのは、この構造である。
単価か、粗利率か、購入回数か、CACか、回収期間か。
五つの変数のどれを動かすかで、打ち手はまったく違う。
全部を同時に動かそうとする計画は、どれも動かせなかった計画と同じ結果になる。
粗利率90%なので月の粗利は一人9,000円。
広告経由の獲得コストは一人5.4万円で、回収には6ヶ月かかる。
平均継続が18ヶ月ならLTVは16.2万円、LTV/CACは3倍で、指標としては健全に見える。
だが月100人の獲得を続けると、毎月540万円が先に出ていき、回収は半年遅れで追いかけてくる。
成長速度を上げた四半期に、黒字計画のまま現金が最も細る。
この事業の正しい打ち手は「もっと集客」ではなく、初月に買い切り商品を挟んで回収期間を縮めることだった。
分解しなければ、この結論には辿り着けない。
LTVは将来の見込みであり、支払いは今日来る。
見込みの大きさと、今日の現金は別の勘定だ。
回収期間を見ない単価経済性は、半分だけの安全確認である。
分解できて初めて、伸ばして良い事業かが分かる。
CACに自分の人件費を入れることを忘れない。
