投資家向けの資料でも、SNSの実績報告でも、率はいつも主役である。
だが倒産した会社の決算を並べると、奇妙な事実に気づく。
伸びながら死んだ会社が、いくらでもあるのだ。
「成長のための投資」という言葉のもとで、人を雇い、オフィスを借り、広告を積む。
売上の伸びが投資の伸びに一度でも追い越されると、資金繰りは静かに壊れ始める。
これが率を追う経営の典型的な破綻経路である。
赤字でも現金があれば続けられるし、黒字でも支払いに現金が間に合わなければ終わる。
損益計算書は意見だが、現金残高は事実だ。
「最悪のシナリオで、現金は何ヶ月持つか」。
この問いに月数で答えられない投資は、金額の大小にかかわらず、まだ判断の材料が揃っていない。
現金残高、今後3ヶ月の入出金予定、最悪時の持続月数。
計器盤に目盛りを増やすほど操縦は上手くなる気がするが、実際は逆で、見るべき3つが埋もれる。
順序を逆にして、成長のために現金の安全を削った瞬間、事業は一度の下振れで終わる賭けに変わる。
直前の決算期まで大きな利益を計上し、成長企業として扱われていたが、金融環境の変化で資金調達が詰まり、黒字のまま民事再生に至った。
損益の見た目と、支払いに使える現金は別物である。
この構造は規模を問わず同じで、個人事業でも、売掛金の入金が2ヶ月先の受託業が、外注費の支払いを先に迫られて詰まる形で日常的に起きている。
伸びているかではなく、現金が続くか。
倒産を分ける問いは、昔から一つしかない。
狙ってよい。
ただし成長は目的関数ではなく、現金という制約条件の内側で解く変数である。
制約を先に固定した者だけが、安心して踏み込める。
計器は3つ。
現金残高、3ヶ月の入出金、最悪時の持続月数。
即答できるようになるまで、毎月更新する。
