取引件数だけ見れば海の家が圧倒的に安定しているはずだ。
だが実際に潰れやすいのはどちらか。
件数の数え方には、罠がある。
店舗としては圧倒的な取引件数であり、前講の方程式の第一変数だけを見れば、極めて安定した事業に見える。
客の一人一人は別人でも、来店の可否を決めている根っこの条件は全員同じである。
見かけは数千件、構造は一件である。
独立性ゼロの件数は、数えても意味がない。
安定に寄与するのは件数そのものではなく、「同時には消えない件数」だけである。
自分の取引を並べ、「この取引が消えるとしたら何が原因か」を書き出したとき、同じ原因が並ぶ範囲は一件として数える。
これが独立性の会計である。
X・インスタ・YouTube・検索・紹介と入口を分け、どれか一つが死んでも下限が守られる形を作る。
分散の目的は売上の最大化ではなく、同時死の回避である。
訪日客向けの土産物店、ガイド業、民泊は、それぞれ何百、何千という取引を持っていたが、「外国人観光客が日本に来られる」というただ一つの前提をすべての取引が共有していた。
入国が止まった瞬間、業種も規模も違う無数の事業の売上が、ほぼ同時にゼロへ落ちた。
個々の事業者の努力や商品力の問題ではない。
取引の束が構造上一件だったことが、同時死の原因である。
逆に、同じ時期に国内客と通販という別の依存先を持っていた事業者は、下限を守って生き残った。
管理できない数の販路は、どれも中途半端になり全チャネルの下限件数が立たない。
目的は数ではなく、依存先の種類を2つ以上にすることである。
まず2本目の独立した柱を立てることが、分散の第一歩になる。
依存を共有する千件より、独立した十件が、下限を支える。
過半なら、構造上の件数は一件である。
