IKEAにあるような、100cmの紙のメジャーである。
彼がそれをちぎって見せた数秒の実演は、どんな時間管理術の本より雄弁だった。
1cmが1年である。
まずこの全長を眺めると、人生は十分長く見える。
30歳なら30cm。
この部分はもう使えない。
取り戻す手段は存在しない。
健康や活動に制約が出て、稼いだ金を思い切り使うことが難しくなる年代である。
人により幅はあるが、75cmから先を自由に使える人は多くない。
30歳なら、残りはおよそ45cm。
しかもそのうちのかなりの部分は、睡眠と生活の維持に消える。
金を有意義に使える正味の時間は、この紙よりさらに短い。
稼ぐ力の獲得を1年先送りすることは、残り45本のうち1本を、準備という名目で燃やすことと同じである。
算術の上で、先送りに合理性はない。
言葉で「人生は短い」と言われても人は動かないが、自分の残り時間が物理的な紙の長さとして目の前でちぎられると、認識が変わる。
健康寿命という統計も同じことを示している。
日本人の平均寿命と健康寿命の差はおよそ10年前後あり、その10年は「生きてはいるが、自由に動き回ることが難しい」時間である。
定規の右端は、多くの人が思っているより手前にある。
逆である。
残り時間が有限だと物理的に認識した人は、優先順位が明確になり、迷いに使う時間が減る。
定規は不安の道具ではなく、選択の道具である。
だから稼ぐ力の獲得は、人生の後半ではなく、今この瞬間に寄せるのが合理である。
残った長さを机に貼っておく。
