だが備えにも致死量がある。
しかもこの死に方は、事故のような派手さがないため、本人が最後まで気づかない。
備えに投じる資源は有限であり、過剰配分は挑戦と成長への配分を食う。
2重化の改善幅と4重化の改善幅は桁が違うのに、コストはほぼ同じだけかかる。
ある点を過ぎた備えは、安全をほとんど買っていない。
備えの目的は墜落の回避であって、安心感の購入ではない。
それ以上は重量である。
翼にとって、過剰な装甲は揚力の敵。
守りの資源は攻めの資源と同じ財布から出ている以上、過剰な守りは攻めの直接の削減である。
出荷基準(この状態になったら出す)を作る前に決める — 撤退ラインの出荷版。
基準がないから、磨き続けることが唯一の選択肢になってしまう。
「この磨きは、顧客のどの行動変容に効くのか」。
答えられない磨きは、自分の不安の処理を制作物の上でやっているだけである。
不安の処理は磨きではなく、計器と基準でやる。
各社は防水、ワンセグ、高精細カメラと機能と品質基準を積み上げ、仕様表の上では世界最高水準の端末を作っていた。
そこへ2007年、機能を大胆に削ったiPhoneが現れた。
コピーも貼り付けもできない初代機である。
だが削ったぶん市場投入と改善の回転が速く、数年で市場の構図は塗り替えられた。
積み上げた守り(仕様と品質基準)が、攻め(検証と学習の速度)を食い潰した例として、これほど大きなものはない。
作り込みの量は、勝敗の変数ではなかった。
検証が済んだ場所には、いくら磨きを入れてもよい。
禁じているのは、外れているかもしれない仮説の上を磨き続けることである。
墜ちる確率を下げない一単位は、すべて飛ぶ側へ回す。
答えられなければ、出荷基準を先に書く。
